木村覚さんと福留麻里さんが企画する「ひみつのからだのリシピ」

2019年8月1日から31日までを担当しました。

instagram 内の bonus6234 で見ることができます。

 

31個書いたところ、もう少し書きたいと思い、ここでも継続することにしました。


#1

 

伸びてくる葛のツルはどこで引き返すのだろうか。そっと腕を絡ませてみる。

 

陽を求めて、支えを求めて、動き回る動物のような植物。どこかで諦めて引き返している。

 

 

#2

 

今日会ったカラス(又は他の鳥)の特徴を覚えてみる。明日また会えるか探してみる。

今日見た気になる車(できれば運転手も)のナンバーを覚えてみる。明日また会えるかもしれない。

今日乗った電車の車両にひみつの印(傷つけたりしないように)をつけてみる。明日また乗るかもしれない。

 

思うほど不特定多数じゃない。意外と、似たようなメンツが行き交っている。よく見る肥料運搬のトラックとその運転手がいる。ジャワでは、昨日あの通りをすっ飛ばしてバイクに乗ってたねとよく目撃された。みんなよく見てる。

 

 

#3

 

雨に思いっきり降られてみる。傘もささずに帽子もかぶらずに濡れてもいい格好で。

 

濡れそぼった鳥、なめらかな樹皮を伝う水、水につかったカエルたちを意識しながら。

 

 

#4

 

湯船に浸かる。力を抜いてゆっくりと腕を浮かばせていく。水面から腕が少し浮き上がる。さらに腕を上げる際の腕の重み、沈める際の水の浮力を感じてみる。力を抜いて、腕が浮かぶにまかせてみる。死体になれるか、喫水線を眺めながら。

 

ジャワの踊り子たちの腕は重力と切り離されて上がっていくように見える。振り子になって揺れるからだの動きと連動している。地面に触れる爪先やかかとから伝わる力が骨を通して、腕や首まで繋がっている。そんな風に踊りたい。

 

 

#5

 

なるべく背の高いクレーン車を探す。長く伸びたワイヤーに沿わせて背伸びをしてみる。

 

高いビルの正面に立ち、輪郭を手と腕でなぞる。下から上げていき、真ん中で指が出会うのに合わせて、ビルとからだを一体化させてみる。

背骨の修正にはこれが一番。疑いようのないビッグな垂直感。うまくいくとビルになって歩けることもある。

 

 

#6

 

賑やかに鳴くセミの先頭バッターを確かめる。ツクツクボウシだと切り裂くように鳴き始めるのがいて、後に他のが続いていく。我が家の辺りのヒグラシは毎日15時前に一斉に鳴き始める。光の変化で音のカーテンが揺れ始める。

 

電車でも交差点でも、誰が最初に動き出すかを探ってみる。なんなら自分が切り裂くように歩き始めてもいい。F1レーサーのように、重心を前にかけ光の変化に集中しスタートする。

 

 

#7

 

タカタンタカタンタカタンと気持ちよく駆け下りられる階段を探す。うまくいけば、踊り場の次の階段でいつもと反対の足を前にして。

 

少し段差が低めで、角が丸まってたりすると最高。靴の底で角を滑り降りて行く。古い陸橋だと薄っぺらで、鉄板自体が少し弾んだりしますよね。

 

 

#8

 

ゴーヤのツルのすぐ横に指を置く。しばらくするとツルが指に絡み始める。

 

ツルが巻きついてくる力を感じて、自分の指の力のメモリを合わせて行く。気をつけないと、あちら側の世界に引き込まれてしまうことがある。

 

 

#9

 

手を振らずに歩いてみる。腕がかすかに動き出しそうになるのを感じたら、ゆっくりと動きを育てていく。

 

息子がまだ小さかった頃、走る姿を見ると左腕を大きく振っていた。右はほとんど止まっていた。自分とそっくりだった。

 

 

#10

 

動くことが全部食べることになるような青虫。何か好きな音を聴きながら、音が全て動きになるように、動きが全て音になるように、青虫のように動いてみる。

 

ジャワ舞踊はスローダンス。遅いほどいい。ゆっくり動くのは意外と難しい。ゆっくりと充実して動くのは本当に難しい。

 

 

#11

 

木の枝をつかんでダラっとぶらさがったり、揺れたりするサルは実はストレッチをしている。柱や壁を使ってからだを伸ばす。つり革が最高だが、バレやすいので気をつけてこっそりサルになってからだを伸ばす。

 

ストレッチは伝染する。空港の搭乗口なんかでやっていると輪が広がっていく。

 

 

#12

 

森の木を伝う猿のように、壁や柱や手すりにタッチしたり握って勢いつけたりしながら、街を飛び歩いてみる。

 

腕や手首を柔らかくして、手のひらをしっとりさせて、月面の重力にセットして、次のターゲットを予測しながら。

 

 

#13

 

川の横で大きく枝を広げる広葉樹、連なる丘の緩やかなカーブの上空で葉を揺らすポプラの木々、新しいビルの公開空地の行儀のいいイケメンな針葉樹、もっと何気ないけど気になる木を探してみる。見かけるたびに声をかけてみる。

 

その木の周りにどんな木があるのか。何十年も近くにいて意識しあっているかもしれない。どうしてそんな枝ぶりになったのか。動かないようで、長い時間の中で動いている。そんな風には動けないか。

 

 

#14

 

街中で見知らぬ人と不意に目があった時に、ひるまず眉を上げ微笑する準備をしておく。さすがにウインクはできないけど。口元をやわらげるだけでもいいし。

 

外国人やちいさな子ども連れだと、微笑み返しの確率も上がるかな。留学中、バリ島で目が合うと、みんなすかさず眉とあごを上げてあいさつをしてきた。ついつい顎を下にうなづいてしまって、損した気になった。タメ口で来たのに、思わず敬語で返したみたいな。

 

 

#15

 

腕の毛をそっと風になびかせてみる。毛をセンサーにして、いろいろなものに近づけてみる。

 

からだの輪郭がにじんでいることは魅力である。熱帯の果物やお香や体臭を含んだ空気をかき回すように踊るジャワ舞踊の感覚に近づける。体温と気温が近い夏だと、皮膚の境界があやふやになっているので毛の感覚が際立つ。

 

 

#16

 

壁に映った自分の影を何かの影に近づけてみる。自分の体の影同士でもいい。ずっと近づけていくと、影がすっと伸びてくっつくところがある。影に吸い込まれたり、影から脱出したりしてみる。

 

東の山の端からあがる満月を見ていると、地平線から浮き立つ時に、伸びて少し楕円になることがある。

 

 

#17

 

お尻の光が灯っている数秒の軌跡と見る人の残像を意識しているかのようなホタル。早すぎず遅すぎず滑らかな一筆書き。空に筆を走らせるように動いてみる、歩いてみる、自転車や車を走らせてみる。

 

東西南北に合わせたスクエアな床のセンターに4本の柱が屹立するジャワ舞踊の舞台で、踊り手は宙にラインを引いていく。体の軸、足や腕、視線の延長線から生まれるライン。二人組のセンターや動きの渦には磁場が生まれてくる。

 

 

#18

 

今年の花を探してみる。いつもの年よりひときわきれいに見える花を。今年はネムノキだなあ、意外とセンダンだなあ、いやあフジかなあ、アジサイが鮮やかだなあ、と。年によって目立つ花が違う。花の色が微妙に違う。周りの景色に映えている。春先から咲いている花たちの色の傾向が変わっていくのも愛でながら。

 

クリーム色の栗の花を見るとああもう終わった!あるいは一周回ってしまったのかと思う。大きな花より、小さな花や集まった花が好きです。妻は、大きくて派手で立派な花が好きです。そんなこともそれぞれの踊りとつながっているかなあ。

 

 

#19

 

ジャンプ傘の持ち手をおへそに置き、手動でゆっくり開いていくのに合わせて、からだを開いていく。最後に生地に張力がかかるところでさらに骨の間に隙間をあける。呼吸に気をつけて閉じたり開いたりを繰り返してみる。

 

バリの男踊りでは、目も見開きながらからだを大きく開いていく。竹で広げられた干しダコのように、そして傘のように、広がりつつ中心に力を蓄えつつ。

 

 

#20

 

池の鯉の泳ぎ方を観察する。何種類か進み方がある。頭で曲がったり、胸で勢いをつけたり、尻尾でゆっくり動き出したり。それを真似て歩いてみる。

 

勢いをつけた後、水を感じながら惰性でズーンと進む池のヌシのような鯉もいる。人通りの多い商店街や地下街を鯉になって泳いでみようか。

 

 

#21

 

土から顔を出した大根をゆっくり引いてみる。小さな根がぶちぶちと切れて、もう後は引くだけになる状態を感じてみて、それからもう一度ゆっくり引いていく。

イカのワタが千切れないようにスポッと抜けるように引いてみる。見えないところを感じながら。

 寝転んだ人の足をゆっくり引いてみる。足の付け根のずっと先の方までつながっている腰骨や肩を観察しながら。

 

人の足を引っ張るのはよくないんだけどね。